2013年1月、パラスホテル「ル・ムーリス」の総シェフだったヤニック・アレノの退任を受け、9月からこのラグジュアリーなホテルの食シーンでタクトを振るのは、巨匠アラン・デュカス。
「レストラン・ル・ムーリス アラン・デュカス」と名前も新たに、エセンシャル(本質)を追求した美食空間を作り始めている。
パラスホテル「ル・ムーリス」に3つ星を2007年にもたらし、フランス最高のレストランの1軒と誉れ高かったレストラン「ル・ムーリス」のシェフとして君臨していたヤニック・アレノ。今年1月、彼の引退に伴い、「ル・ムーリス」が半年近くの時間をかけて選んだ後任は、世界を舞台に活躍する、アラン・デュカスだった。
「ル・ムーリス」と同系列のラグジュアリーホテル「プラザ・アテネ」内で「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」を取り仕切りこちらも3つ星を獲得していたが、この夏から改装工事のため来夏までクローズ。同じグループかつクローズ中と、いくつかの好条件が重なり、今回の人事にいたった。
さて、シャン・ゼリゼをわたり、エッフェル塔の近くからチュイルリー公園の向かいに移ったアラン・デュカス。新たなパラスを舞台に、どんなレストランを仕掛けたのだろうか?
エセンシャル(本質)への想い
アラン・デュカスは常々、こう語っている。「本質に立ち戻らなくてはいけない。本来の味や香りがある場所へ。食材自体に、それぞれの魅力を語らせよう。技術は、〝自然の風味をより高める〟という本来の役割に徹するべきだ」。
その言葉通り、「レストラン・ル・ムーリス アラン・デュカス」のメニューに載る料理は、非常に本質的だ。”フォア・グラ”、“野菜と果物”、”カツオ、ナス“、”ヒラメ、オリーヴ”、”肥育鶏、セープ茸“、”スパイシーな仔羊、アーティチョーク“、”ピスタチオ、サクランボ“、”ハジバミ“、、、。加熱やソースなどの詳しい説明を一切排除した、食材のみスポットを当てた、いさぎよい料理名。食材の本来の味をどこまでも追求し、それに一番相応しい調理法を、非常にシンプルにほどこす。結果、皿に描かれるのは、食材の魅力そのもの。決して華美な盛り付けではない。しかし、食材自身がもつ美しさが生き生きと描かれていて、食べての食指を動かすのだ。
カーヴには、1000種ほどのフランスを中心にしたワイン。トップ生産者の最上のキュヴェの充実度はもちろんだが、無名ながら魅力的なワイン作りを行なう作り手の作品も味わえる。
料理を引き立てるテーブルアート
エセンシャルを追求した料理に魅力を添えるのは、テーブルアート。今までこの店のテーブルを飾っていたエレガントなブーケは取りやめ、カボチャやニンジンなどの野菜や、銅製のケーキ型をテーブルに飾る。ウォーター・グラスは、ヴェネツィアはムラノ島にアトリエを構える巨匠カルロ・モレッティが生み出す、様々な色で模様をつけたかわいらしい足なしグラス。
アミューズには、大きなストウブの鍋が蓋つきのままテーブルの中央に運ばれ、蓋をあけると粗塩の上にのった蒸しあげられたばかりのミニ野菜たち。チーズフォンデュのように、長いフォークを使ってみんなで一つの鍋から野菜をつついて食べる。料理皿は、ピエール・タション、緒方慎一郎、ピーター・ストックマンら今をときめくアーティストが手掛ける。陶磁器もあればガラスもあり、シンプルな料理を、控えめに、しかし時には遊び心を加えながら演出する。
ダイニングは、自然光を受け、シャンデリアやモザイクが優雅な雰囲気をかもし出すきわめてラグジュアリーな空間。ヤニック・アレノは、そのラグジュアリーさをより強める美しさを追求していたが、アラン・デュカスはそこに、ピュアで肩の力が抜けたエレガンスを導入した。
空間はそのままに、料理とテーブルアートをがらりと変えて、新しいスタイルの店を提案し始めたアラン・デュカス。彼が考える”本質“に触れに、「レストラン・ル・ムーリス アラン・デュカス」を訪ねたい。
Restaurant le Meurice Alain Ducasse
228 rue de Rivoli 75001 Paris
TEXT:Yukino KANO
Photos : ©Pierre Monetta
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