• 33.VIN

ビオは不思議に満ちている。

最終更新: 2019年5月9日






  • ビオロジック、ビオディナミ、無農薬、自然派などと、かなり定義に違いがあるけれど、総じてビオ・ワインと括られる。近年、それら全てのビオ・ワインが非常に美味しくなった。少なからず、そのクオリティーは、一昔前に比べて格段に上がったと思う。

  • これらは、生産者のみで成しえた事ではない。当然、日々研鑽を積み、より良いワインを造ろうと志している生産者の功績は大きいが、その味わいを損なわないように、お届けしようと取り組むインポーター達、消費者に美味しく味わってもらおうと努力をする酒販店や飲食業、そして、ワインをより楽しもうと願う消費者たち。ビオで繋がる全ての人間が、より良いワインに思いを寄せ、お互いの意識を共有した結果の現れだと思う。どこか一つが欠けても、成しえない味わいが完成しつつあるのだ。


  • ビオ・ワインとは自然が織り成すものだが、人が造り出すものである。





DOMAINE EN BELLES LIES


ビオディナミ有機栽培農法とは、シュタイナーが人智学に基づき考案した、独自の農法と言われている。

ここで注意が必要だが、ビオディナミは、人智学の一部でしかなく、イコールとは言い切れない。 農薬を使わないのは有機農法と変わらないが、地球と植物のリズムに合わせ、宇宙の力まで取り入れようとするものである。

大地を育むためにまかれる堆肥は、栄養を与えるのが目的ではなく、大地そのものの生命力を高めることが目的である。大地の感受性を豊かにし、天体や地球からの力を受けやすくするのである。

ワインの生産者の多くは、醸造学の一つとして、ビオディナミを学び、それをブドウ栽培やワイン醸造の中で実践する。しかしピエール・フナル氏は、人智学の根本を学び、ビオディナミで実践する。そういう経緯の持ち主だからこそ、違う視点でビオディナミを語れるのではないだろうか。



編集部(以下、編):あなたのワインはビオディナミですか?


ピエール・フナル氏(以下、P):ビオディナミのスタイルで造っているよ。自分の畑を持っているが、ブドウを購入することもある。


編:ビオロジック、ビオディナミ、自然派ワインの違いはあなたにとって何ですか?


P:実際にそこまでの違いはないんだよ。農法や醸造学において、規則の違いはある。ヨーロッパでは、ビオというのは農業の規則で、ワインの規則ではなかったんだ。ついこの間まで、醸造過程については言及されていなかった。

ビオディナミは元々すべての作業に規則が設けられていた。栽培から収穫、瓶詰めまで。けれど、それは規則の上での話で、私にとってビオディナミというのは、人の考え方、哲学なんだよ。人が自然に入り込むこと。共存すること。技術でもないし、科学でもない。特別な考え方だよね。共有して、コミュニケーションをとること。開発された農業とはまったく違う方法だね。


編:生化学や生物学も研究していたと聞きましたが?


P:元々、私は生化学者だったんだよ。化学で解明できないことを、解明する研究をずっとしていた。結晶構造やあらゆる物質の分析を研究したよ。

※生化学とは、生命現象を化学的に研究する学問で、人智学とは、人間の叡智と言う意味を持ち、生命哲学や人間的事象を研究する学問。


編:生化学や生物学の知識のみで、ワインは造れると思うのですが、なぜシュタイナー氏が提唱したビオディナミを取り入れたのですか?


P:もちろん生物学の知識で十分だね。けれど、私は学生時代に、まず人智学に興味を持ったんだよ。自分が生化学を専門としていたので、人智学研究所の研究室に入れてもらえたんだ。だから私は、人智学に生化学を取り入れたワイン造りがしたかったんだよ。


編:ビオディナミの考えでは、時に月の動きや、天体を意識しますが、その作用を科学で説明できるのですか?


P:まず人智学という考え方から説明しよう。それは、人の立ち位置を自然界に取り入れる事である。人為的に自然を傷つけてはならないし、自然を完璧な状態で後世に残さなくてはならない。人は土地を耕したり、栄養を与えたり、物を育てたりは出来るけれど、出来る限り自然を壊さないように行う。人智学とは、人間が自然のために作業をすることであり、そのためにすべき事がたくさんある。

我々はエネルギーに働きかける。だからビオディナミという名前なんだ。ビオ・ダイナミック、生命にエネルギーを働きかけると言う意味なんだよ。宇宙の作用を取り入れる、この考え方がとても大切なんだ。人が垂直に立ち、自然が水平に位置する。これが人智学の基本。人智学の考えや方法を、科学的な原理や物理のシステムで説明することは出来ないんだ。

ビオディナミの作用に関する結果は出ている。けれど、基本的要素や原理の解明は出来ていない。ホメオパシーと同じだね。良いであろう結果は出ているが、証明する十分な実験が乏しく、それらを完全に繰り返すことも出来ていない。研究者の中ではビオディナミは科学の原理と呼ばれていて、現在の科学では解明できていない。


編:ビオディナミのワインと、そうでないワインの違いはなんですか?


P:栽培や醸造の違いがあるけれど、醸造家達は全てブドウやワインの事を考えて作業しているから、気持ちの上で、どちらのワインも違いはないよ。 真摯なビオの醸造家達は、出来る限り自然のままに醸造しようとする代わりに、衛生面にとても注意を払い、醸造に純真さを心掛ける。ブドウの育て方やワインの造り方により、わずかな違いが生まれる。調和を大切にするので、年によって味に違いが出てくるけれど、それに手を加えて変化させることはしない。ビオディナミは自然の意思を尊重するという考えの下でワイン造りをしている。

しかし、どちらもワインであることに変わりはなく、科学的に分析しても、多少の違いしか出ない。その多少の違いでも、最後に人の口に入ったときに明らかな違いがあらわれるんだ。それは、生化学的な分析で明らかになっている。

スイスの研究所がワインのエネルギーレベルについて調べたんだ。すべての物質にエネルギーレベルが存在する。人間や動物が消費するものには必ず、エネルギーレベルが存在する。エネルギーレベルのバイブレーションに違いがあるんだ。

研究所によれば、ビオディナミのワインには多くのエネルギーが存在し、より強いエネルギーレベルの数値が計測されたんだ。これは、低温殺菌の牛乳でも同じ結果がでたんだ。低温殺菌の牛乳はエネルギーレベルが通常の牛乳よりも高い数値が計測されたよ。



編:SO2について、少し説明していただけますか?


P:私も瓶詰めの時にだけ多少入れているよ。樽から瓶詰めをする2ヶ月前に1ヘクトリットルに1グラムだけ加える。すべてのワインに入れるわけではないよ。特に、海外に送るワインに入れるね。

ワインは生き物で、特に醸造で人為的な介入を排したビオのワインはデリケートだよ。ワインの熟成を長くしたとしても、瓶詰めの時には注意が必要なんだ。ワインに含まれる多くのものが、外のものと結合してしまう。瓶詰めの際に入れるSO2、硫黄は、それらを予防し、ワインを落ち着かせるためと、輸送の時の酸化を抑えるためだね。酸化を防ぐ物質はワイン自体にも存在するんだけどね。

ワインというのは人の手が加わらないと造れない。ブドウを放っておいても、通常はワインにはならない。そして、ワインは放っておいたら、酢酸発酵が進み、酢になる。人が造らないといけないんだよ。


編:ビオ・ワインは以前に比べると、格段に美味しくなった印象があります。


P:そうだね。ビオの作り手は、日々研究しているからね。そして、インポーターは、15度に保って輸送してくれる。素晴らしい温度管理をしてくれているおかげで、昔よりずっと安定した味わいを提供できるようになったと思う。次の課題は、振動や揺れ、衝撃だと感じている。それらは、温度同様に、問題を引き起こす原因となるからね。

ビオ・ワインは、非常にデリケートだからね。私は輸入業者さんに、寒いところではなく、涼しく静かなところに、振動や衝撃を受けないよう、少なくとも一ヶ月は置いてから、販売するように進めているよ。



編:人智学や月の動きを踏まえた上で、飲むときのアドバイスはありますか?


P:月の動き、確かにそういう飲み方もあるよね。けれど、宇宙による作用は本当に僅かなものであるから、それが真実かどうかはわからない。本音をいうと、人智学とは、現実をより良くするための考え方で、絶対の法則でもないし、万物の基本ではない。

ビオディナミも同じことが言えるけど、例えば、澱引きはこういう日で、この日が最良だと信じ、実際に行動する。重要な事は、その実技や行動を、迷わず実行すること。ビオカレンダーの中で、白ワインは花の日、赤ワインは果物の日に飲むと美味しいと言われている。それならば、美味しく飲める日と信じて、実際に飲むことが重要だよ。

醸造家も、より良いワインを造りたいと願い、実際に行動する事。そこにエネルギーが生まれ、人は感動し、感動させることが出来るんだ。



ビオやビオディナミの生産者の中で、それらを謳わないことは珍しくない。そこには様々な理由や思想がある事は言うまでもない。人智学の専門家であったフナル氏もまた、自身のドメーヌ、Domaine en Belles Lies(ドメーヌ・アン・ベル・リー)のエチケットに、ビオディナミの記載はない。



  • Pierre Fenales ピエール・フナル

  • 2003年、それまでの職業であった、生化学者を辞め、突如としてワインの世界へ入り込んだ。ブルゴーニュに移り住み、醸造学、地質学を勉強し始めた。特にビオディナミ農法に関しては、既に生産者、顔負けの知識と理解を持っていた。2009年、念願のメゾン・アン・ベル・リーを立ち上げ、自身のワイン醸造をスタートさせた。生化学者らしい分析と、人智学に基づいたワイン造りにより、当初から新参生産者とは思えないレベルであった。その味わいとクオリティーは年々精度を増し続け、ワイン通達の舌を唸らしている。



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