サンジュリアン村の南西端に、ブドウ畑に囲まれた一際美しいシャトーがある。シャトー ラグランジュだ。名前の頭文字「L」を形作った城館は、訪れた者を否応なく魅了する。
その歴史は16世紀まで遡り、1855年にはメドック地区のグランクリュ3級シャトーに格付けされた。1983年に日本が誇る飲料メーカー「サントリー」が全権利を受け継ぎ、名実共に日本のシャトーとなった。
その当時、二つの丘にまたがる広大な敷地には、栽培が放棄され荒れ地となってしまった畑が60ヘクタールもあった。入念な地質調査の結果、優良な土壌であることがわかり、細かな区画を作りながら、栽培面積を広げていった。
伝統的な造り方を守りつつ、新しい技術を随所に取り入れた栽培、醸造方法により、近年、その味わいや品質は格段に向上したと言われている。
それでも日本企業がフランスのお家芸とも言えるワイン醸造を手掛け、世界でも有数のワイン産地であるボルドーにおいて活動することはどれほどのことなのか。想像を絶する苦労があったに違いない。
「人と自然と響きあう」という彼らの企業理念は、ワイン醸造で最も重要視される、 自然との共生と、ボルドーの伝統とフランス文化との共生をも意味したものであろう。
昨年の、ボルドーを代表するワインの一大祭典「花祭り(La Fête de la Fleur)」において、彼らは貯蔵庫を開放し、フランス文化と日本文化を融合した会場作りで、世界中から集まったプロフェッショナルたちを大いに盛り上げた。それは、シャトー ラグランジュ取得30周年にふさわしい、盛大なもてなしであったはずだ。
実際にシャトーを訪れ、彼らが醸造したワインを口に含むと、彼らの情熱がひしひしと感じられ、その費やしたエネルギーを考えると感動的ですらある。
そして、同じ日本人として日本の企業が、今もなお伝統と権威あるボルドーにその歴史と味わいを刻み続けていることが嬉しくて、誇らしさを覚えずにはいられない。
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