ランスから車で南に15分、モンターニュ・ド・ランス地域の中心、シニー・レ・ローズにあるドメーヌ「J.ラサール」。1942年、ジュールによって、メゾンの歴史はスタートするが、1982年、彼の死後、妻のオルガによって引き継がれる。以後3世代に渡り女性が指揮をとる女系ドメーヌとなる。現在は妻オルガの娘、シャンタルとそのまた娘のアンジェリーナによって、伝統と味わいを守りつつ、素晴らしいシャンパーニュを生み出している。
女性らしさがあふれている
訪問し最初に驚いたのは、その美しさである。お庭から醸造所に至るまで、装飾センスに溢れ、清潔。特に、応接室は景観にまでこだわりを見せており、窓からランスの街が一望でき、ブドウ畑や教会などフランスらしい景色が来客者をもてなしてくれる。
シャンパーニュを育む大地を汚染しないように、廃棄物処理にも力を入れ、タイルタンクは一切薬品を使わず熱いお湯だけで洗浄できるようにするなど、環境に優しい醸造を目指している。
さらに、シャンパーニュ販売にも女性らしい気遣いが光る。デゴルジュマンという澱抜きをした日付をボトルに直接刻印し、ミスを防ぐと共に管理しやすい仕様になっている。
これらは近年、彼女たちがドメーヌの拡大と共に、多くの人にシャンパーニュを楽しんでもらおうということでチャレンジした変化であるが、決して曲げていない信念がある。
伝統を守り続けること
彼女たちは、常に伝統的な製法を守り、アッサンブラージュを行いながら、ジュールから受け継いだワインの味わいを再現している。「祖父や祖母の哲学は今でも変わらず伝わっているし、これからも伝えていかなければいけない」とアンジェリーナは語る。プロフェッショナルになるための厳しさや教育が行き届いた証である。
母娘のパートナーシップ
シャンタルは幼い頃からブドウ畑の手伝いをしていたが、まさか自らが当主になるとは思っていなかったようだ。娘のアンジェリーナもシャンパーニュを造るとは思っていなかったようで、8年前に戻ってきて、現在は二人三脚でドメーヌ経営をしている。
普段はそれぞれ仕事を分担しているが、大きなことは相談を繰り返す。シャンタル曰く「ドメーヌが成長するために、娘の考え方を入れたりするわ。既に決定されていることであっても相談するのは素晴らしいことだと思うの」。
このシャンタル、アンジェリーナの母娘は友人以上に仲が良く、毎日2人で働くことを喜び、楽しんでいる。娘のアンジェリーナが、友人を夕食に誘うよりも母と一緒に食事したいという程である。週末やバカンスも常に一緒に行動するというのだから驚かされる。
シャンパーニュとモード
アンジェリーナは世界的ファッションブランド「イヴサンローラン」で働いた経歴を持つ。当時、広報にいた彼女はプレス情報を作ったり、ブランドの歴史を伝えたりする仕事をしていた。そして現在、それらの経験はドメーヌの経営にも活かされている。
彼女は、「シャンパーニュとオートクチュールの仕事は少し似ているわ」と語る。両者とも贅沢で、手にするだけで喜びを感じることのできるものだと。さらに彼女は「オートクチュールのドレスは女性を美しくさせる魔力を秘めているもの。シャンパーニュの周りにも同じように人を幸せにする魔法が掛けられているのよ」と事も無げに言ってのけた。
現在、彼女たちにはグラースちゃんというアンジェリーナの娘がいる。彼女はまだ2歳半で小さいために、ドメーヌを継ぐかどうか、彼女がどうなっていくのかなど、まったく想像ができないと母娘は言う。しかし、彼女もまた4代目としてドメーヌに新しい風を入れてくれるに違いない。
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