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  • 執筆者の写真33.VIN

NATHALIE FALMET ナタリー・ファルメ

更新日:2019年5月10日



物事をはっきりと言う性格ゆえ、自信家で高飛車に思われる可能性もある。

しかし、彼女の纏ったエレガンスは微塵も人を不快にしない。

それゆえ、彼女のシャンパーニュを初めて試飲したとき、小林一三の遺訓とも言われる「清く、正しく、美しく」が頭に浮かんだ。

出る杭も、出過ぎた杭も打たれる現代社会において、「強さ」なくして、その理想とも思われる生き方をまっとうすることは難しい。

こわばるような強さではなく、凛としたしなやかな強さこそ、今、世界で注目されている女性の美しさなのだ。


 

大手シャンパーニュ・メーカーが軒を連ねるエペルネイの町から車で2時間、ブルゴーニュに程近い「コート・デ・バール」に従業員2名の小さなシャンパーニュ・メゾン兼研究室はある。


香水の勉強をされていたのに、シャンパーニュの道に進んだのは何故ですか?


「香水とシャンパーニュは似ている部分が多いので、勉強したことが無駄になることはなかったわ。それに、父方がこの地方の出身で、祖父が畑を持っていたから、必然と言えば必然ね。当時ここは、どちらかと言えば農業が盛んな地区だったので、父も会社員としてパリで働いていたの。その時に母と出会って、私が生まれたわけだけど、私はしっかりとした教育を受けさせてもらっていたし、成績も優秀だったから、両親は畑仕事を継いで欲しいとは思っていなかったみたい。でも私はシャンパーニュに底知れぬポテンシャルを感じていて、どうしてもやりたいと思ったの。妹はワインに興味がなかったし、私がそこまで言うならと二人とも快く賛成してくれたわ」


畑を持っていたのに、何故すぐ始めなかったのですか?


「私が国家資格を取得した94年当時、両親は1ヘクタールの畑を持っていたのだけど、その広さでは私が考える理想のシャンパーニュは造れないと判断したからよ。だから、畑で収穫されたブドウはすべて農協などへ売却していたわ。私はテイスティングにも、研究にも興味を持っていたので、ワインやブドウのジュースを分析する研究所を構え、ワインのコンサルタント会社を始めたの。大手メゾンも含め、70社以上の会社と取引していたわ。今は自分のシャンパーニュ造りに忙しいから、30社くらいに抑えているけれど、コンサルタントは継続中よ。私自身がメゾンを立ち上げてしまうと、私を受け入れられない醸造家も出てくるし、市場に出てしまえば、ライバルになってしまうから、契約が減っていくことは、今後仕方がないと思うけれどね。それでも、彼らのお陰で知識も経験も培えたし、2008年には1ヘクタールだった畑も、2.8ヘクタールに拡大出来たから、非常に感謝しているわ」


出る杭は打たれなかったのですか?


「正直に言えば、打たれたと思う。納品遅れはもちろんだけれど、発注したものと違うものが届くなんて、数え切れないほどあったわ。市場の取引でさえ、1年目の人のシャンパーニュは買わないと門前払いされたり、2年目にも2年目だから買わないと断られたりもしたのよ。女性という理由での対抗勢力もあったかもしれないわね。けれど、弱音を吐いたことも、やめたいと思ったこともないの。だって、自分自身のやっている事に自信を持っていたし、何より素晴らしいシャンパーニュが造れているのだから、やめるなんて勿体ないじゃない。それに、今は何があっても、やめるつもりはないの。私の娘がね、跡を継ぎたいと言ってくれているのよ。シャンパーニュを造るという機会に恵まれ、その財産を次世代に託すことが出来るのだから、私は本当に幸せ者だわ」


貴方自身を分析してくれませんか?


「私は子供の頃からとても自立した考えを持っていて、やりたいこともはっきりとしていたわ。その時の口癖が、『私はもう大人だから』だったの。少し負けん気の強い性格だとも思うわ。完璧主義なところもあるわね。最近、畑仕事が多いから、家の掃除が出来ていないのだけど、出来てない自分にイライラしているわ(笑)。たとえそれが取るに足らない事だとしても、重大な過ちに繋がることもあると思ってしまうのよ。それと、都会育ちで、女性的ね。昼間は長ぐつをはいて畑仕事をしていても、バーに行くときはハイヒールを欠かさないの。これはパリジェンヌの母の影響かしら(笑)」


貴方のシャンパーニュをどう味わって欲しいですか?


「シャンパーニュを造るためには、私を含めみんなの努力が必要なの。たまに、才能やセンスと云った言葉で片付けられてしまうのだけど、そんなことは決してないのよ。努力に勝る才能はないの。エレガンスのその後ろにある切磋琢磨を感じてもらいたいわ」


彼女は「努力」という言葉で締め括った。天才は等しく努力をし、それを続けていけるひとかどの人間のことを云う。彼女もまた、世界に一握りの天才であろう。




Nathalie Falmet ナタリー・ファルメ


パリ生まれ。パリ育ちの才気溢れる女性醸造家。

パリ第6大学で香水学を修め、91年、ランスにて醸造学を学ぶ。94年に国家資格を取り、翌年にマスター(修士)を取得。ブドウ栽培士と醸造士、二つの称号を持っていることは珍しく、女性としては、彼女が初の快挙となった。

2008年シャンパーニュ地方最南端「コート・デ・バール」にて、自身のシャンパーニュメゾンをスタートさせる。それ以前は、70社以上のシャンパーニュメゾンにてコンサルティング業務を行っていた。2009年リリースとなった初作のシャンパーニュが、複数のワインガイドから90点以上の高得点、高評価を獲得することになり、天才女性醸造家として世界から注目を浴びる。


Photo : Ayako TAKAISHI

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