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  • 執筆者の写真33.VIN

イット・シャンパーニュの予感



トニー・ゴディナ


「私たちの仕事は魔法のようだと思うのです。シャンパーニュは人生の大切な時に共にあり、幸せを味わう時の飲み物なんです。祖父の時代にお祝い事で私たちのシャンパーニュを飲んでくれていた家族の子どもたちが大人になり、さらに私たちの時代にも続いている。そんな風に、人生の幸せな時を鮮やかに彩れるなんて、光栄だし何より嬉しくなっちゃうよね」。


J.P.ゴディナ9代目当主『トニー・ゴディナ』。彼は現在30歳、醸造家の多いシャンパーニュ地方でも、かなり若い醸造家当主である。8代目当主である父親のジャン・ピエール(J.P)ゴディナから19世紀より続く家業を継いだ時は弱冠24歳。無我夢中の6年間だったと振り返る。



シャンパーニュ


スパークリングワインの最高峰はと聞かれたら、世界中がシャンパーニュ!と口を揃えるだろう。それほどに圧倒的な存在感を放ち、それゆえに少し敷居の高いお酒と感じられていることも多い。2015年、シャンパーニュ地方がユネスコ世界遺産に認定されたことで、ますます高貴な印象に磨きが掛かったかもしれない。


シャンパーニュの呼称は法律によって厳しく守られていて、シャンパーニュ地方で生産されたものだけが、そう名乗ることが出来る。

世界中にスパークリングワインはあるが、泡があるからといって、シャンパーニュとは言えないのだ。



ヴァレ・ド・ラ・マルヌとピノ・ムニエ


シャンパーニュ地方はパリから140キロ、フランス最北端のブドウ産地である。北緯50度に位置し、日本の樺太の真ん中辺りと同緯度であるため、冬は非常に寒い地域である。東西150キロ、南北190キロに及ぶ広大な土地で、その至る所に畑が点在している。大きく5つの地区に分類され、「J.P.ゴディナ」はその中でも最西端の「ヴァレ・ド・ラ・マルヌ」に構えている。


シャンパーニュは主要なブドウ品種【シャルドネ】、【ピノ・ノワール】、【ピノ・ムニエ】を含む、合計7品種※のブドウで造ることが法律で定められており、ヴァレ・ド・ラ・マルヌ地域はピノ・ムニエ主体の畑が多いのが特徴である。


「黒ブドウのピノ・ムニエは素晴らしい品種で、丸みややわらかさが特徴だけれど、5年、10年経つと、どうしてもアロマが褪(あ)せてくる印象があるんだ。ここの気候は白ブドウのシャルドネに最適とは言えないけれど、80年代から植え始め工夫を重ね、ここ数年でかなり綺麗なシャルドネが育つようになってきた」そう笑いながら、祖父の名前「アンリ」を冠した、シャルドネだけで醸造されたシャンパーニュ、彼らのブラン・ド・ブランを見せてくれた。


彼らの畑は11.5ヘクタールあり、その大半はピノ・ムニエ。少しのピノ・ノワールとシャルドネを栽培している。たとえば剪定方法ひとつにもこだわりがあり、ピノ・ムニエはこの地域伝統のマルヌ渓谷方式、ピノ・ノワールはコルドン方式、シャルドネはシャブリ方式と、それぞれのブドウを活かすように心がけているという。






レコルタン・コーペラタール


「質の良いブドウを毎年安定して手に入れるため、私たちは農業組合に属しているんです。レコルタン・コーペラタール(RC)っていう業態でシャンパーニュを造っているんですよ。そうすることで、安心して醸造に取り組めるようになったんです」。


シャンパーニュ地方でブドウ栽培をしている農家は、15000軒とも20000軒ともいわれ、その中で実際にシャンパーニュを造っているのは、大小あわせておよそ5000軒。ブドウ栽培農家のほとんどは、大きなシャンパーニュ・メゾンや組合にブドウを販売して生計を立てているのだ。


5000軒の生産者の業務形態は大きく7種類に分かれていて、日本ではネゴシアン・マニュピュラン(NM)とレコルタン・マニュピュラン(RM)の業態のシャンパーニュが特に有名である。レコルタン・コーペラタール(RC)は、まだまだ日本では馴染みが薄いだろう。


たとえばゴディナなら、ピノ・ムニエのブドウは土地柄、最上の品質で作り出すことができるが、ピノ・ノワールやシャルドネは他の地域にもっと素晴らしいものがある。そこで、彼らは栽培、収穫したブドウを一度、農業組合の共同タンクに預け、各地域の組合員達のブドウと混ぜ合わせることで、完成するシャンパーニュの質と量を高めている。彼らが属している組合は、厳格な審査があり、上質のブドウ栽培者しか属せない。現在、品質補償のマークを国に申請している。


「もう一つ組合に属する強みは、年によって、ニーズによって、取り出すブドウ品種や量を調整したり工夫することが出来るんです」。

ブドウの出来は当然毎年変わる。シャルドネが素晴らしいときもあれば、ピノ・ムニエが素晴らしいときもある。そして、インポーターは、白ブドウだけで造られたシャンパーニュ(ブラン・ド・ブラン)を欲するところもあれば、ピノ・ムニエ主体のロゼなどを好むところもある。需要によって、取り出すブドウの種類や量、いつ取り出すかまでも決めることができるのだそうだ。



シャンパーニュの新時代


現時点で彼らは日本上陸を果たしてはいないが、早ければ今夏、日本でも彼らのシャンパーニュを楽しめるようになる。 

「祖父の時代までで築き上げ、父の時代に生産量を増やした。僕の時代では、まず、醸造方法などをより良くしてさらに美味しくしていくこと。そして、色々な人たちにこのシャンパーニュに出逢って欲しいって考えているんです」。恥ずかしげに顔を赤らめながらも、ゆっくりとした力強い口調で語ってくれた。そう。キャリアは長いが、彼はまだ30歳。受け継いだ伝統を守りながら、さらに素敵でかつ親しみを持てるシャンパーニュの時代をつくっていくだろう。


日本には様々なスパークリングワインが輸入されている。その中で、シャンパーニュはひときわ煌びやかな存在感を放ち続け、どうしても気取っている時向けに感じる人たちも多く、実際に値段も少し高めではある。それでも、一度試してみたら、シャンパーニュの彩りが、それを補って余りある価値あるものと納得できるだろう。


「僕にとってのシャンパーニュは、何といっても楽しむためのお酒です。親しみのある友人や、大切な家族とね」。そう言う通り、彼の造るシャンパーニュは非常に温かみがあり、優しさに満ちた楽しげな味わいである。


シャンパーニュはその味わいや値段によって、いくつもの表情を覗かせる。まるで洋服のようにいくつもの場面で、その着こなし方が変わる----普段着のファストファッションでも、手の届かないオートクチュールでも無く。彼らのシャンパーニュは、毎日の装いにほんの少しはじけたエスプリを加えられるお洒落なプレタポルテのようだ。


日々の生活に彩りを与えて空気を瑞々しくしてくれる。自分の人生に、ほんのり愛おしさが増す。まさにイット・シャンパーニュの予感である。



 

※「シャルドネ」、「ピノ・ノワール」、「ピノ・ムニエ」、「ピノ・ブラン」、「アルバンヌ」、「プティ・メリエ」、「ピノ・グリ」の7品種で生産が認められている。

2010年11月の法改正により、「フロモントー」と「アンフュメ」は「ピノ・グリ」に統一された。www.33vin.net/champagne_aoc.pdf(フランス語原文・原産地呼称統制法)

 

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