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  • 執筆者の写真33.VIN

CHÂTEAU MARGAUX シャトー・マルゴー




かの偉大なる作家、故ヘミングウェイは自他共に認めるマルゴー愛好家であり、再三、シャトーに滞在し、マルゴー傍らに執筆したという逸話が残っている。言うなれば、シャトー・マルゴーは彼の創作意欲を刺激するミューズのような存在であった。

孫娘にマゴ(マルゴーの英語読み)と名付けるほど、このシャトーを深く敬愛していた。




醸造長のフィリップ・ベリエ氏が語る、 清々しくも説得力のあるシャトー・マルゴー。


へミングウェイ以降、彼のようにマルゴーを敬愛する人物はいますか?

突拍子もない質問からインタビューは始まった。


それは僕だよ。醸造長という仕事柄、ほとんど毎日マルゴーを試飲するけど、飽きることはないし、毎回喜びを感じられる。僕はマルゴーでしか働いたことがない。

先代の時代から、現在に至るまで、ずっとね。マルゴーは僕の人生と言っても過言ではないよ。


オーナーが変わって信念や哲学が変わったことはありますか?


マルゴーの信念は、オーナーによるものではなく、常にテロワールに基づいている。テロワールが導くマルゴーを造ること、それこそが、我々の信念なんだ。

ワインは、テロワールが最も重要で、その次に天候。人間が入ってくるのは、一番最後。僕達の仕事は、テロワールと先人達がおこなってきたことに従い、最高のワイン、よりバランスの取れたワインを造ることなんだ。


マルゴーは新しい試みを色々としていると聞きましたが?


シャトーには研究室があって、新しいテクノロジーも含めて様々な研究をしているよ。コルクやビオ栽培など、少量ずつ試しながら品質を確かめている。他のシャトーも同様だと思うけど、後退するような変化はしてはならないんだよ。

研究は次世代のためであって、今を変えるものではないし、変わりすぎてはいけないんだ。それに、先人達の功績は素晴らしいものだよ。彼らは偶然に幾多の方法を見つけ出したわけではなく、観察、考察を繰り返し、導き出していたんだ。おそらくテクノロジーの分析に頼り過ぎる我々よりも、注意深く研究していたと思うよ。


マルゴーはメドックの女王と言われるけれど、どう感じられますか?


味わいの表現には、上品でエレガント、繊細でふくよかなど、美しく女性的なニュアンスがあるからね。更に言えば、複雑性と芯の強さが同居していること、だから女王と称されるのかもね。それに知っておいて欲しいのは、シャトー・マルゴーは300年以上も続いていて、この先もマルゴーであることを続けていかなければならない。

それ故、気を付けるべきことは、流行に流されないということなんだ。60年代、80年代と今を比べると、天候の違いもあって同じワインにはならないかもしれない。けれど、マルゴーという文化を守ってゆく必要があるんだ。


他の五大シャトーについての意見を聞かせてください。


どのワインも素晴らしいね。土壌の違いがよくあらわれているよ。今日はこう感じても、明日は違うかもしれない。我々の健康状態によっても感じ方は違うからね。

ある人はラトゥールが好きで、ある人はマルゴーが好き。そこに大した違いも理由もない。個人的な感覚の違いだと思うんだ。ミレジメに関しても同じような事が言える。醸造長の私にとって、最高に素晴らしいミレジメというのは存在する。そして同様に難しい年も存在するけれど、味わいにおいての良し悪しの判断ではないんだよ。

近年だと、2013年は本当に大変な年だった。その難しさゆえ、面白いワインになると思うんだ。どのシャトーのワインも2013年は面白く、飲み頃が早く訪れるだろうから、きっと楽しめるだろうね。ワインと言うのは、本当に魔法のように、いつでも喜びを与えてくれるものだと思うよ。


今回の取材、味わい以上に、フィリップ・ベリエ氏のお話とその雰囲気に感動させられた。冒頭の質問に、照れながらも澄み切った声で「それは僕だよ」と手を上げた、あの瞬間にマルゴーというワインの偉大さと、シャトー・マルゴーという酒蔵の素晴らしさを感じずにはいられなかった。

勤めているシャトーをこよなく愛している人間が造るワインに、間違いはない。

本当は、五大シャトーの味わいについても語ってくれたのだが、その話はまた機会をみてご紹介したいと思う。




 

Histoire de Château Margaux


このシャトーの起源は遠く12世紀にまで遡ることができ、その当時はラ・モット・ド・マルゴーと呼ばれていた。それが今日の姿になるのは、16世紀の終わり、レストナック家が所有していた時代で、17世紀の終わりには、今日と同じ262haもの広大な土地を所有しており、既にシャトー・マルゴーの名声は確立していた。


シャトー・マルゴーはフランス革命の渦中で差し押さえられ、1802年にド・ラ・コロニラ侯爵のものとなり、現在の邸館が建設された。その後も数多くの人物により所有され、1977年にギリシャ出身の実業家アンドレ・メンツェロブーロスがオーナーとなった。1980年、彼の死後、娘のコリンヌが単独所有者となっている。



 

Château Margaux


2009年ヴィンテージから、Margaux du Château Margauxというサードワインのリリースも始まり、ますます勢いに乗る五大シャトーの一つです。


ボトルのラベルにはシャトー・マルゴーのモチーフでもある優雅な邸館がプリントされており、シャトーの偉大さ、優雅さを感じさせます。

ボルドーワインの女王というだけあり、そのワインには妖艶さがうかがえます。まるでセクシーな女性の口紅のような香りが印象的で、口に含むと、シルクのシーツで寝ているような感覚を想像させられるのです。


日本では、空前の大ヒットとなった『失楽園』に登場した事から有名になりましたが、ワインの味わいと映画の雰囲気はあながち遠くないように思えます。


TEXT :  Michihito HIGASHIHARA


 

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