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  • 執筆者の写真33.VIN

THE COSTES

更新日:2019年5月9日



華やかなパリには、溜め息が出てしまうようなリュクス、心ときめくようなオシャレを具現化したホテルや飲食店が無数に存在する。

それらがひしめき合う中、リュクスとモードの完全なる融合を確立させ、業界の頂点に上り詰めた兄弟がいる。ジルベール・コストとジャン・ルイ・コストの二人、コスト兄弟だ。

彼らの手掛ける店舗は、コストデザインと称され、世界中のセレブやファッションピープルから絶大な支持を集めている。


30年になろうとするコストの歴史は、シャトレ近くのカフェから始まった。その後、ホテル・コストやカフェ・マルリーなど次々と成功を収め、フランスでの店舗経営を磐石なものとしてきた。現在40店舗以上にもなるそのどれもが、世界中から脚光を浴びている。独創的な店舗デザインやコンセプトが、人々を魅了し、陶酔させ続けている。


そして近年、コストは新たな改革を始動させた。ジルベールと息子のティエリー・コストが築く、新たなコスト“Beaumarly”である。 コスト兄弟からコスト一族へ、彼らの店作りは次のステージを歩み始めたのだ。





COSTES-ISM コストイズム


コスト兄弟は、これまでフランスのメディアにさえほとんど登場していない。外国メディアにいたっては、彼らの顔写真さえ露出することはない。

PRによれば、ウェブサイトや旅行ガイドに情報のみ掲載し、新店舗のお披露目にはプレスを招待しているというくらいで、雑誌取材にはほとんど応じなかったと言うのだ。それは、メディア嫌いといった高飛車な理由ではなく、外部メディアを使ったおざなりな宣伝を避け、自らのサービスを通じたコミュニケーションをモットーとする、彼らのこだわりのためだという。作られた虚像ではなく、自身で作り上げることが彼らのポリシーなのだ。

今回の取材許可は、日本やアジアのことも考え始めた矢先の話であり、2年半ほど前に始動した“Beaumarly”のメディア戦略の先駆けであったようだ。


STYLE スタイル


一般的には、コンセプトやスタイルを決定した後、地区や店舗を探し出すが、彼らは、場所を決め、店舗を決め、その後、コンセプトとスタイルを決める。それらは、思いつきなどではなく、徹底した市場調査によって、その界隈に呼応する最高のものとして決定されるのだ。

簡単に言ってしまうと、料理、価格、働く人、店舗デザインなどの全てが、はじめに場所ありき、ということだ。そして、コストデザインの重要な鍵を握る店舗デザインは、まずは数人のデザイナーと何度も話し合いを重ね、ジルベールとティエリーのイメージを忠実に再現できるデザイナーを選び抜く。

コストデザインが世界中から注目を浴びるのは、彼らが非常に芸術に長けており、美しいもの、美しいことに妥協しない性格ゆえなのである。


LOCATION 場所


コストが店作りの第一歩を踏み出した当初から、最も大切にしていることは、場所選びである。彼らの所有するカフェやレストランはどれも、文化・歴史的に重要な建造物の近くに置かれている。

“Café George”は、ポンピドゥーセンターの最上階、“Café Marly”は、ルーブル美術館内、“Café Ruc”は、コメディー・フランセーズ(国立劇場)の前に位置している。

場所は、戦略に基づいた明確なヴィジョンを持って探す必要があり、ジルベールとティエリーが自ら調査している。彼らは、一ヶ月以上ものあいだ一つの界隈で過ごし、その地区の全てのカフェやレストランに一客として通いつめる。さらに特筆すべきは、1時間置きに店舗や席を変え、カフェの客達と会話までするというのだ。


CUISINE 料理


彼らの提案する料理はとてもシンプルでベーシック。タルタルステーキやインゲンのサラダ、チョコレートケーキなど、カフェでは定番のメニューが並び、さらに日替わりメニューも用意する。こうしたスタイルにするのは、昔懐かしいありのままのパリを守るためのこだわりでもある。

ここでも、彼らは頻繁にレストランに顔を出し、当初の味に狂いはないかをチェックし、クオリティーを保つよう徹底している。また、マーケティングに基づいた確固たる戦略によって、各店舗の料理人を選別し、味の違いをつくりあげている。更に、ジャン・フランソワ・ピエージュが率いる“THOUMIEUX”のようなガストロノミーも、彼らの得意とするところである。





CHANGE 変化


パリの街は、昼と夜でその雰囲気を一転させる。彼らの店舗では、それに合わせた変化を取り入れることにしている。“Café Français”では、朝、昼、ティータイム、夜と、それぞれメニューや音楽、照明、人材さえも変えている。その場所や時間にあった雰囲気とサービスを創造することが大切なのだという。


COSTUMES 制服


コストの店舗へ行って最初に驚くのは、働いているオテスが、全員オシャレでエレガントである事だ。オテスとは、フランス語でウエイトレスのこと。彼女らに制服はなく、全て自前の服装というからまたビックリする。但し、必ずハイヒールを履くこと、いつでもエレガントであることがルールだという。

男性も同様に、白いシャツに蝶ネクタイとだけ決められている。サービスの前には全員にチェックが入り、化粧やツメは綺麗にしているか、シャツにアイロンは掛かっているか等を確認し、もしなっていなければ着替えに帰らせる徹底ぶりだ。一見するとミニスカートの女性が多いように思えるが、ワンピースでもパンツでもエレガントであれば良いという。


EMPLOY 人材


フランスにおいても、コストで働くことはステイタスとなっていて、多くの若者が履歴書を送ってくる。女優やモデルの卵、さらに実際にそれらの業界で活躍している人達からも働かせて欲しいと相談が来ることも少なくない。

ティエリーは人事にも力を入れており、綺麗なだけの人を採用するわけではない。笑顔で雰囲気が良く、そして、頭の回転が速い人材を見極めるのだという。まったく笑顔のないモデルを雇うつもりはなく、サービスが好きで、この仕事を好きになってくれる人が重要なようだ。


POST ポスト


オテスにも序列を設け、オテス、オテスの長、マネージャーなど、いくつもの階級が存在している。新人には数週間の研修に担当をつけ、教育を入念に行う。それゆえ、コストでマネージャークラスにまでなった人は、どこでも雇ってもらえるようだ。

PRのHUGさんも、元は “Café George”のギャルソンだったと教えてくれた。当時マネージャーになることを薦められたが、自らジルベールとティエリーに直訴し、今の仕事への転向願いを出した。今では3人のアシスタントがいるディレクターに昇格し、彼はコストグループのPRとして、一日100件を越える問い合わせに対応している。実力主義のコスト一族では、やる気を見せ、結果を出せば、その願いが叶うシステムなのだ。


MUSIC 音楽


彼らが店舗で流すBGM。そうコストミュージックだ。アーティストのステファン・ポンポニャックを起用した音源は、全世界でCDリリースされ、オシャレミュージックの代名詞となった。現在もアーティストに依頼をすることもあるが、その膨大な店舗数ゆえ、お店のコンセプトや客層を考えた、各店舗用のオリジナルBGMをわざわざ音楽事務所に制作させている。


CHALLENGE 挑戦


今回、待ち合わせをした“Café Français”は、2013年の3月にオープンした新しいカフェである。オペラ・バスティーユの目の前に位置し、素人目にしても立地条件は最高で、場所選びにも抜かりはなく、容易に成功するように見えたが、ティエリーはそうは思っていないようである。

バスティーユはローターリー交差点を挟み、西側と東側に別れていて、ここは西側。しかし、カフェなどの飲食業が栄えているのは東側、オペラ座の並びなのだ。こういうチャレンジ精神はお店作りにおいても重要な要素で、すでにあるパリを大切にするだけでなく、新しいパリを作り上げるという挑戦こそ、彼らの目指すところなのだ。

ところで、新店舗を出店する際のお披露目にはプレスも招待するのだが、コストはここで、自分たちの作った宝物を探してくれと言わんばかりの遊び心をつけ加えるという。招待状には住所を明記せず、いくつかのキーワードだけを記載して、その下に《見つけて下さい》とメッセージを添えるのだ。こうした茶目っ気のある性格も、コスト一族を形作る要素のひとつかもしれない。


ON AIME FAIRE DE NOS LIEUX, VRAIMENT DES LIEUX DE DESTINATION.
我々は、“目的地となる目指す場所”を作りあげることが好きなんだ。

これまでティエリー・コストは、海外の文化を取り入れ、色々なアイデアを吸収してきたという。彼の最近のお気に入りは、India Mahdavi系のデザイン。それが海外進出を目論んでのことか、パリに新しいエスプリを表現しようとしてのことか、明確な回答は頂けなかった。


一つ確かなことは、ティエリーは類稀なるビジネス界のヴィジオネール=見えるはずのないものが見える者であるということだ。彼が展開する新たなコストは、今はまだティエリーにしか見ることは出来ないが、きっと近い将来、私達にもはっきりと見せてくれるだろう。


Photo : Michiru NAKAYAMA / Takeshi HORINOUCHI

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